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森林の整備・管理・循環に取り組む「ニセコ雪森考舎」の現在とこれから

いつもnoteを読んでいただき有難うございます。
北海道ニセコ町の公式noteを担当しています、伊藤里佐(いとう りさ)です。
  いまニセコ町で話題の情報、オススメのスポットや、移住者・起業者が増えている背景、ここでしか話せない裏話など…自由に発信しています。
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今回は2023年3月31日発足の『株式会社ニセコ雪森考舎』について発信して参りたいと思います!


🌳どんな人がどうして立ち上げたの?

『ニセコ町の森林は、総面積の67%』。こう書くと一見大きく見えますが、実は北海道の他の市町村と比べるとそこまで大きくなく、林業を生業として成り立たせることが容易でない状況でした。そのため、森林をよりよい状態にするための管理を森林全域で行うことが難しく、ニセコ町の木材が十分に活用できていないのが現状でした。
 将来にわたってニセコ町が持続可能なまちとして存在していくためには、このような森林の課題に長期的に向き合い、森林資源の循環利活用を促し、地域経済循環を向上させていくことが大切です。
 町は2020年7月に気候非常事態を宣言し、2050年には温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指しています。そのため森林の適切な管理による二酸化炭素の吸収が必要です。
 2021年には、「森林ビジョン」を策定し、町の森林づくりの基本理念と方向性を示しました。

 森林ビジョンの基本理念にもある「共生循環の森林づくり」を進めるためには、これまでの木材の経済的機能だけでなく、より多様な恩恵の獲得、そのための森林の管理・整備の方法、そして今まで以上の産業(収益と雇用)を模索する必要があります。
 そのニセコ町の林業への再挑戦、再スタートとして、町の森林所有者や林業経営者などの発起人が中心となって町の森林・林業の様々な課題に向き合い森林資源の循環利用を促していく会社を設立しました。
  それが「ニセコ雪森考舎」です。「ニセコゆきもりこうしゃ」と読みます。
( 巷では「ゆきもり」の愛称で呼ばれることも)

2023年3月31日「株式会社ニセコ雪森考舎」設立

設立時のニセコ雪森考舎・広報ニセコ5月号に掲載>>

ニセコ雪森考舎は、廃校となって使用されていなかったニセコ町福井地区コミュニティーセンター隣にある旧福井小学校の校舎を拠点としています。

  私がニセコに来た春🌸に、ニセコ雪森考舎の取締役の加藤様に中を案内していただいたことがありました。
  旧福井小学校を活用した事務所兼木材加工所は、晴れていたこともあり空気が澄んでいてとっても気持ち良かったことをいまでも覚えています。
 最初は場所が分からず、隊員に現地まで先導していただきました。ところが帰りは簡単で、地図で改めて確認すると道の駅ビュープラザから車で10分程度の場所でした。

グーグルマップ上は福井コミュニティセンターで検索を。(R5.12/11現在)
エントランスのディスプレイ 小学校の痕跡と木の組合せがよい感じ。
木工体験事業も行ってます。一枚の板を加工しつるんとしたスプーンを制作出来ます。
事務所入り口 なんだかおしゃれ

🌳ニセコのシビックプライド

  ニセコ町では現在、町政運営における最上位の第6次総合計画の策定を進めています。12年前に策定した総合計画の評価をした上で、アンケートやまちづくり町民講座、ワークショップで町民の皆さまの意見を集めながら、学識経験者や関係団体、公募委員で構成する審議会で審議しながら作られます。

  総合計画のアンケートによると、ニセコ町について誇りに思うことに77.5%の人が「自然環境」を挙げており、今後のまちづくりにおいて特に重視すべきと思う事も57.1%の方が自然景観の保護、52.9%の方が水資源の保全と、半数以上の方が自然環境の保全を挙げています。
 また観光庁の調査でも「自然・景観などの地域資源」が重要という認識が8割以上を占めたようです。

出典:観光庁「ニセコ町持続可能な観光に関する調査レポート」

12月7日町民センターにてニセコ雪森考舎の取組みについて町民説明会が開催され、多くの方がお越しになりました。

ニセコ雪森考舎の町民説明会。開始前の様子。

🌳創立メンバー加藤正紘氏にインタビュー

伊藤)加藤さんは都会的でスタイリッシュな方だなぁという印象で、一見、林業分野のひとのイメージがないのですが、加藤さんが林業分野に携わることになったきっかけは何ですか?

加藤)元々東京の民間企業でまちづくりコンサルタントや、建築土木設計・デザインに従事していました。中でも屋外空間のデザイン(=商店街路、広場、公園、軒先空間など)や中心市街地のエリアマネジメント等を主にやっていました。
 出身の北海道で仕事をするにあたって東京で学んできたノウハウ以上に、産業や自然環境などもう少し広域に捉えていく必要があるなと考えていました。
 実は、独立することを視野にニセコ町や他某町の地域おこし協力隊への応募内容もチェックしたこともあったんですよ。

伊藤)えー地域おこし協力隊?そうなんですねっ。

加藤)はい。残念ながら応募はしませんでしたが。そんな中、株式会社トビムシと出会うきっかけがありまして、ニセコのプロジェクトを知りました。
 当時、実は林業業界をよく知らなかったのですが、トビムシが設立に関わった西粟倉村の学校による地方再生の取組は以前からチェックしており、ここで繋がったんです。
 自分は山登りも好きだしスキーも滑るしキャンプもするので、森林は身近にあるものでした。森林や林業は、これまでの経験と異なる領域と思われるかもしれませんが、私からするとこれまでの経験の延長線上として考えており、森林や木材という地域資源を起点にまちづくりや地方再生に役立てられる活動ができるかなと興味を持てたのが合流のきっかけですね。

株式会社ニセコ雪森考舎 取締役加藤正紘氏

 また大学時代、「グリーンインフラストラクチャー」という概念を研究していて、人の暮らしと植物の関係性として流域で考える必要があることに素地はあったんです。グリーンインフラストラクチャーとは、(本来、雨水を管理し、浸水危険を減らし、水質を改善する)遊歩道、湿地、公園、保安林などの形で在来植物を利用した土地と自然地域とを相互に連結したネットワークで、簡単に言うと「植物の力を借りた治水」ですね。
 水の流れに植物の力を借りることで、植物が吸収した水を蓄えその敷地で蒸発してくれたり、地下水涵養されたり、気温をさげたり、そこの土壌で水を浄化したり、長期的にみてコストダウン等というメリットがあるんですよ。
 グリーン(=農地、湿地、植栽、街路樹など)に対して、舗装道路などの人工物を「グレー」と表現するのですが、グレーインフラによって地表の雨水がその敷地で処理されずに川に集まり海に流れると、下流の市街地・集落で内水氾濫等の原因になってしまいます。
 つまり、地域の外も一緒に考えないとどこかに皺寄せがきてしまう。市街地の人の暮らしだけでなく山・森林のことも考えなくてはと気づいたきっかけでした。

グリーンインフラストラクチャーで雨を吸収しよう 出典:U.S EPA資料より
都市のグリーンインフラストラクチャーシステム概要図 出典:Biosolar Roofs: A Symbiosis between Biodiverse Green Roofs and Renewable Energy(Chiara Catalano)

伊藤)なるほど・・初めて聞く言葉でした。でもマニアックで面白い考え方ですね。立ち上げからこれまで一番大変だったことは何でしょう?

加藤)大変だったのは、予想に反し他の地域と比べて林業がそこまで盛んではなかったので、製品化の出口戦略だけではなく全てにおいて着手しなければならない状況だったことです。
 切り出した丸太を加工する製材所がニセコ町内にも昔あったのですが現在はなくなっていますし、近隣の蘭越町、倶知安町の製材所もなくなっています。地元の昔から林業されている方から、「昔は林業で儲かった」なんて話を耳にしましたが、1966年(昭和41年)にニセコ町森林組合が解散してしまって今は南しりべし森林組合(蘭越町)とようてい森林組合(京極町)に造林事業を、町に林業者への指導を委ねたとニセコ町百年史に記述があります。
 豪雪地帯のニセコでは、施業できる期間が限られ効率が悪いせいか、全道的にみても後志管内の事業者数、林業従事者は少ないように感じます。また、本州に比べ、樹種が異なるのもありますが、伐採・植林という林業のサイクルも1、2周遅く、天然林が多く残っているのも特徴ですね。

伊藤)なるほど・・。ゼロスタートということになりますか、、大変ですね。

加藤)はい。「大変だった」というか、いまも大変なんですけど笑;

伊藤)ですよね笑;とても勉強になります。ニセコ林業の歴史について初めて聞くことばかりでありがとうございます。
ところで説明会では様々な意見が飛び交い関心が高いのだなと思いました。いかがでしたか?

加藤)取組み事業をあえて細分化して詳細に説明したので、どれが一番大切かわかりにくかったかもしれません。優先事業は森林/林業側の課題を解決していくことです。まずはひとつずつ、成果を示していきたいと思っています。

説明会資料より

伊藤)説明会の中で面白そうだなと思ったお話があったのですが、天然木は個性的であるが故、用材に向かず行き場のない迷い子になることがあると。そういった子(木)たちに迷木と名付け、主役になって活躍してもらう「迷木展」や「迷木コンペ」を開催するというアイデアです。

(※まだ実際にイベントが開催されているわけではございません。)

映画「グレイテストショーマン」のように迷木がスポットライトを浴びれるのか!?とおもいました。

加藤)「グレイテストショーマン。。^^笑 ありがとうございます。
天然林、いわゆる広葉樹はトドマツなどの針葉樹とは異なり、放射状に成長するものが多いので、工業製品的に取り扱いしやすい真っ直ぐな素材が限られるんですよね。天然林の多いニセコ町だからこそ、少しでも光が当たればと考えています。」

伊藤)また、質疑の際、福井地区の方が「地域コミュニティーと積極的に関わってマーケティングに活かして欲しい」と話されていたのが印象的でした。

加藤)ありがたいことに、旧福井小学校の校舎を事務所として利用させていただいたおかげで、福井小の卒業生だった近隣の方が遊びに来て昔話を教えてくれたり、庭の剪定をやって欲しいという要望をいただけたりと、お付き合いさせていただいています。

伊藤)地域への溶け込み方が理想的ですね!お話お聞かせいただきありがとうございました。

🌳ニセコ雪森考舎って何するの?

説明会資料より

上図がニセコ雪森考舎の事業領域です。森林と木材活用の困りごとに向き合っていく事業を展開していきます。6つの事業がありますが、森林整備の総合ガイド側を優先とし段階的に下記内容にもあるサービスを徐々に提供開始していきます。

●森林関連業務の需要整備事業

森林所有者への相談窓口を設けることで、需要(森林関連業務)を集め・膨らませ・整理し、繋がっている事業者さんに最適な形で業務をお渡しする事業です。

●森林関連事業者サポート事業

森林関係業務を営むために必要な知識と技術、重機・機材・場所、人手(仕事)を初期費用をおさえて得られる仕組みとして、「①人材育成サービス」「②貸出サービス」「③人材紹介サービス」を提供します。

●林務代行事業

ニセコ町の森林整備・管理を促すために、森林の情報把握や制度・手法の紹介など、役場林務を代行します。ニセコ雪森考舎では、上記事業とあわせて森林相談窓口を開設し、毎週木曜日にニセコ町役場農政課で相談を受け付けています。

●森林空間利活用事業

森林空間の需要をマッチングし、森林管理を促す「①森林マッチングサービス」、町民の森林への関心向上機会の創出、域外へのニセコの森林のPRとして「②森林・木材業ツアー」を提供します。
 例えば、お借りした森林内をガイド付きでサイクリングしたり、子供たちが樹皮採集をしながら森を巡りクラフト体験が出来る企画などが実現できるよう準備中です。

●ニセコ森林高付加価値化事業

これまであまり注目されてこなかった天然林広葉樹(日本国土の35%を占める天然林(北海道は60%が天然林、ニセコ町では76%が天然林))を利活用していくため、企業・研究機関などと連携し天然林広葉樹に宿る価値を研究・発掘していく「①広葉樹研究機能」、天然林広葉樹が多いニセコ町にて、生産者と製作者と顧客が提案し合い(要望を引き出し)、広葉樹の利用拡大や広葉樹製品の価値向上のための場を提供する「②広葉樹PRイベント」を実施します。

●木材活用事業

地域で採れる木材を活用し流通コストを下げ、川下事業者が積極的に使うことで、地域材の需要を生み出しながら付加価値を上げていく取組として、「①木材仕入販売サービス」「②木材救出サービス」「③木材活用サポートサービス」を提供します。
この空間、こんな商品、木材で作れないか?ご相談ください!

イメージ:白樺樹皮でガーラント製作 

2023年は9月にNISEKO WOOD PARKというイベントをニセコグラベルフェスティバルと同時開催。

🌳なぜ今なのか?100年先のニセコの森を育てる

発行:公益財団法人日本生態系協会

 日本の国土の7割を占める森林ですが、所有者が不明な森林の顕在化、担い手不足により手入れ不足の森林が増えています。
 そこで、総務省と林野庁は令和元年、各市町村が私有林の経営管理受託をする仕組み「森林経営管理制度」と各市町村で森林整備や人材の育成などに充てられる財源として「森林環境譲与税」を開始するなど近年、森林に関する動きが活性化されはじめました。
 ニセコ町でも内閣府のデジタル田園都市国家構想交付金(前・地方創生推進交付金、補助率1/2)に、ニセコ雪森考舎の前身の活動が採択されたことを経て、昨年令和5年3月のニセコ雪森考舎発足に至ったのです。

説明会参加者からの質疑では、
「これまでも森林に関する数多くの説明会があった。これからも町民参加をしていける会社に育てていきたい」「応援して、見守って、協力していきたい!コラボしましょう」など雪森考舎に期待の声があがりました。
 一方、住民への十分な説明のないまま発足したとの見方を指摘する声に対し、町は反省すると共に、森林の整備管理・循環利活用に決意を表しました。

撮影・筆者伊藤=ニセコ昆布岳

 「だけどその木は、芽が出てから育つまで60年もかかるんです!
森林というのはすぐに利益が出てとかそういう話ではないんです。
報酬は二の次にとみんな頑張っています。真剣に誰かが100年単位で豊かな自然を残せるか?に取り組まなければいけない。
 どうかあたたかく応援してくだされば本当に嬉しく思います!よろしくお願いいたします。」と最後を締めくくる代表取締役川原さんの言葉は会場をひとつにしました。

🌳募集!現役で活躍する地域おこし協力隊からメッセージ!

扉には一面の結晶❄️

伊藤)林業へ興味を持つ方へ、情熱溢れる現役隊員の清部さん、鈴木さんからひと言頂戴します!

清部)誰もが歩んできた人生の中で何か熱意を注いだものや、夢中になるものがあったと思います。そんな一人一人が道中バッグに詰めてきた経験や知識を活かし、森林資源を未来へ繋いでいく仕事が出来る場所、それがニセコ雪森考舎だと思います。

伊藤)天に伸びた枝葉は一本の幹を守る・・!?良い例え。。!
そしてもうひと方鈴木さんお願いします!

鈴木)ニセコ町の豊かな森を次の世代にも繋いでいきたい。そんな想いを持ちながら仲間たちと森で働いています。
手入れをした森はとても気持ちの良い場所へと生まれ変わります。
そんな仕事を一緒にしましょう!

伊藤)どこかでこの記事をお読みになりニセコへ来るきっかけになったら、、と想像する伊藤でした。
今後もニセコ雪森考舎から目が離せません。まだまだご紹介できないところが盛りだくさん!続きをお楽しみに!

●ニセコ町地域おこし協力隊のinstagram>>@niseko.kyouryokutai

>>令和6年度【前期】地域おこし協力隊募集

応募期間:令和6年1月22日まで
従事期間:令和6年5月1日~令和9年3月31日 ※年単位での任用(最大3年間/~令和9年3月31日)
応募方法:上記募集ページ内の応募資料一式をご確認のうえ、必要書類を指定の送付先へ提出下さい(郵送・FAX・メール全て可)
応募条件:募集要項PDFをご確認ください

●農政課林業サポート枠内容:

ニセコ雪森考舎の事務所内の機材や木材たち。
丸太は雪に埋もれてしまいました。

●地域おこし協力隊で活動後、ニセコ町内で起業。自伐型林業の推進を実践する合同会社Hikobayu >>北海道ニセコ産トドマツ精油|HIKOBAYU

長い文章になりましたが、最後までお読みいただき有難うございました!😊

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